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| グアテマラのチキンバスでスリを捕まえた 1/3 | グアテマラのチキンバスでスリを捕まえた 3/3 |
警察署には流暢な英語を話す通訳がいた。
実はスリの男には仲間がいたらしい。現場に一部始終を見ていた学生の目撃者がいて、背の高い男が一緒だったと証言したという。心あたりがないかと訊かれて、思い当たった。
僕が後ろ向きで身動きがとれなくなっていたとき、一番後ろの座席にひとりで座っていた男がいた。バックパックを押し出すのを手伝ってくれたので、僕はお礼を言った。それに気をとられている間に、財布を盗まれたのだ。なんだ、あいつもあんな笑顔で悪人だったのか。
通常、スリは複数犯が多い。一番狙われるのは、バスなどの乗り降りの際だ。まず被害者の前後に回り、はさみ撃ちにする。前にいる方がわざと手間取って通路を塞ぎ、人の列が混雑し、大勢の人間が密着した状態を作り出す。そして後方にいる仲間が、被害者のカバンから貴重品を抜く。
時には、その大勢の密着した人間ぜんぶが仲間だったりする。たとえ実行犯を吊るし上げても、逆に返り討ちにあってしまう。バスの運転手さえも仲間の場合もあり、犯人の逃亡を幇助したりするから厄介だ。
人の列の中や、せまい通路などでは、カバンは必ず腕に抱いていなければならない。僕はいつも鉄則を守っていたが、今回は犯人たちのチームワークにしてやられた。もし、財布を盗られたことに気づくのが一瞬遅かったら、財布は仲間の手に渡り発見できなかっただろう。
結局、共犯の男は捕まらなかった。
警察で一部始終を話し終えると、犯人を刑務所に入れたいから、財布を証拠品として貸してくれという。悪人を懲らしめるためならばと快諾した。お金がたくさん入っていた方がいいのか、わざわざそんなことまで訊いたが、少しだけ入っていればいいらしい。
調書の作成が終わると、続けてその足で検察官の事務所へ行き、告訴することになった。また車に乗って移動する。
検察官を待つ間、通訳の男性と雑談していて、ある事実を知らされた。警察の調書では、財布は僕が自分で奪い返したのではなく、警察が犯人のポケットから発見したことになっているというのだ。
犯人を間違いなく刑務所に送り込むために、警察は調書を捏造していた。告訴の直前になって、僕に口裏を合わせてくれという。こうなると、どっちが悪人だかわからない。
僕が検察官にありのままを話したらどうなるのか、考えもしなかったのだろうか。それとも、通訳の男性が僕の証言を適当に言い変えるつもりだったのだろうか。恐らくは、誰も何も深くは考えていなかったのだろう。僕が、何を言って何を言ってはいけないのか確認しようと提言すると、通訳は慌てて警察署へ電話して調書の内容を確かめていた。
何はともあれ、あの男がスリであることは間違いない。警察もあくどいことをするが、どっちがより悪いかを考えて、僕は警察に従うことにした。犯人はカミソリの刃も所持していたし、しかも前科二犯だという。僕としては、たっぷり刑務所に入っていてもらいたい。男が娑婆の空気を吸っている間、また別の旅行者が被害にあうのだ。
これで一件落着、だと思われたのだが…。
後日、証拠品として提出した財布を受け取りに行き、驚愕の事実、というか、呆れ返る失態を知らされた。
犯人が裁判で無実を主張し、あっさりと認められ、すでに釈放されたというのだ。
犯人のいい分はこうだ。財布が自分のポケットから発見されたというのは、警察の嘘である。そう、それは確かに嘘だ。次に、財布の中身がわずか1ドル程度というのは不自然。そりゃそうだ、犯人は僕の財布に大量の現金があったのを実際に見ている。最後に、パスポートのコピーが入っているのも不自然で、警察がわざと入れたと主張したらしい。
結局どっちもどっちで嘘を言っているわけだが、裁判官は犯人の主張を受け入れた。僕が理解できない、何か新しい種類の冗談だとしか思えない。
僕は常に、財布にパスポートのコピーを入れている。宿のチェックイン、両替、バスチケットの購入、クレジットカードの利用、検問、パスポートの提示を求められる場面はいくらでもある。そんなとき、大抵の場合はコピーが役にたつ。旅行者だからこそ、パスポートのコピーを所持しているのは、ごく自然なことだ。
現金が少なすぎたのも、犯人にとって有利に働いた。100ケツァール (1,400円) 以下の窃盗の場合、罪がすごく軽いという。今さら言うな、だから僕が最初に訊いたのに。
そして極めつけは、犯人から押収したカミソリが、裁判で証拠品として提出されなかったという。なんと警察が紛失したのだ。僕はひっくり返るほど呆れた。
そして不思議でならないのが、なぜ被害者である僕が不在の状態で裁判が行なわれ、犯人だけの主張が認められて釈放が決まってしまうのか。それは、はたして裁判と呼べるのか。そういえば、現場にいたという目撃者の学生はどうした。きっと警察は住所氏名さえ控えていないのだろう。
警察の誰かが金を握らされ、証拠を隠滅したのか。いくらなんでも裁判官が金を握ったというのは、グアテマラをバカにしすぎだとも思うが、ありえない話でもない。前科二犯の犯人、いや容疑者は、国選弁護人を使いあっさりと無料で無罪放免になったという。
僕は呆れっぱなしで口が開きっぱなしだったかもしれない。検察官が申し分けなさそうに言うには、僕が証言台に立つのならもう一度起訴できるらしい。僕はためらうことなく答えた、証言します。今ごろあの男は、次の旅行者を狙って仕事を再開しているに違いないのだ。
そしてそれから二十日もたって、ようやく裁判が行なわれた。その間にいったい何人の被害者が増えたのか。
指定された時間通りに、通訳と一緒に裁判所に出頭した。裁判官は自分の失敗を悟ったのか、あきらからに不機嫌で、顔面の筋肉が小刻みに痙攣していた。そもそも、これほど長期滞在して粘る旅行者などいないに違いない。裁判官にとって僕は、判決をくつがえしにきた忌々しい存在でしかない。
これもおかしな話だが、裁判は容疑者不在で行なわれる。犯人側の弁護士が出頭するので問題ないのかもしれないが、その弁護士が現われない。裁判は延期かと思いきや、廊下を歩いていた無関係の若い男が呼び止められて、いきなり代理の弁護士に任命された。もうすべてが茶番劇でしかない。
よし顔ぶれはそろった、と思ったところで、裁判官が僕のパスポートを見せろという。持って来いとも言われていないし、持ってきていない。先日起訴状を作った際にパスポートのコピーを提出した、そっちにあるはずだと主張したが無視。なばら、そこにある証拠品の財布の中にコピーがあると主張したが、それではダメだという。
結局、裁判官は益々不機嫌になり、裁判は一週間後に延期となった。
僕がパスポートを持ち歩かない理由は、あなたが逃がしたようなスリがたくさんいるからで、財布にコピーを入れているのは、あなたのように突然見せろと言う人がいるからですよ。そう言ってやりたかったが、言えるわけもない。
そしてさらに一週間。裁判の日の朝。
迎えに来るはずの通訳が現れない。警察署まで行ってみるが、不在。携帯電話も通じない。通訳がいなければ、自分だけで裁判所へ行っても意味がない。
結局昼ごろになって通訳がのこのこと現れた。別の町へ行っていた、自分の代りに同僚を迎えに行かせた。というのが彼の言いわけだが、真相は闇の中。
今日の午後に、新たに裁判の日取りを連絡する。そう言い残したまま、通訳からの連絡はない。なんの音沙汰もない。最後まで信じていたひとりがいなくなり、誰もいなくなった。
そろそろ財布だけでも取りに行こうと思う。紛失しました、そういう落ちがないといいのだが。
あれから被害者はどれだけ増えたのだろうか。どうせスリなんてたくさんいるのだから、捕まえても無駄に違いない。グアテマラの警察にとって、旅行者のわずかな正義感など、所詮は仕事を増やすだけの厄介なものでしかないのだろう。
そして僕は溜息をひとつ。
グアテマラもやはり、こうなのか。
コメントさせていただくのは初めてですが、加倉さんの文章をいつも楽しみに、次はいよいよグアテマラの話だなと、毎日チェックしていました。
私は、2年続けてグアテマラ詣でをしたほど、グアテマラに魅せられています。だから、どんな話を聞かせて下さるかとワクワクしていたのですが、スリに会われたとは・・・。
年金暮らしになったら、グアテマラに長期滞在も考えていたのに、警察も裁判所も信じられない国では、さすがに困りますね。
でも、グアテマラシティを避ければ、アンティグアはもちろんパナハッチェルやシェラなど、たくさんいい街がありますし、人も親切です。
どうぞ、これからも健康と安全に十分気をつけて、旅行を楽しんで下さい。
今度はスリですか。
そんなもんでしょ。よっちさんに危害が及ばないだけよかったと思います。
2度あることは3度あると言います。しばらくは身辺に気を付けたほうが良いような気がします。
どーも 他の方々のHP・ブログなど見るに、日本人は良いカモになってるようですね。
私としては、取り逃がした彼らが、彼らの仲間が加倉さんたちを再度狙う・・・これが怖いです。
結局裁判がうやむやになって、警察や裁判官や犯人への憤りが宙ぶらりんですね。
日本にも警察がでっちあげた事件があったけど、こんなだらしのない公僕がまかり通るほどじゃない。
正しいとは何か、真実とは何か、私ならこんな状況に陥ったら裏を考えれば考えるほど頭がおかしくなりそうです。
スリはこういう結果になるのがわかっている確信犯なんですね。
これ以上、事件に巻き込まれないように祈ってます。
お財布ちゃんと返してくれたか心配です。
次は、ティカルですね。
加倉さんからのコメントしみじみと眺めてました。
俺もいつかティカルに行きたいです。いや行くぞ。
体調に気をつけて、スリに気をつけて、存分に旅を続けてください。 けんぼう
グアテマラも信用無い国だったんですね。
どの国もそうだろうけど…。
次の地ではラッキーなことがおこりますように☆
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