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| サンパウロで詐欺師に出会った | 日本人宿の小さな日本 |
今回の旅で最初に歯の治療をしたのはネパールだった。けっこう大掛かりな治療で、一本の歯を治すのに五回も歯医者へ通った。
次はイランで、パサパサのチキンを喰っていると奥歯が欠けた。治療できそうな場所もなく、ブルガリアまで放っておいた。運良く、英語が堪能な綺麗な女医さんを見つけた。前歯にダイアモンドを着けたのよ、とニコリと微笑んで治療してくれた。しかしその治療は二週間でダメになり、治療費はムダになった。
アフリカへ入ってからは、明らかに虫歯だろうが、どんなに痛かろうが、鎮痛剤を飲んで我慢した。アフリカで歯医者へ行くくらいなら、僕は旅をやめて帰国する。
そしてサンパウロで二週間が過ぎたころ、ふと歯医者へ行こうと思いついた。正確に言うと、歯医者へ行かなければならないことを思い出した。二週間でダメになった奥歯はほったらかしだし、他にも痛む歯が何本かある。
これだけ日本人がたくさん暮らしているのだから、当然日本人の歯医者だっているだろう。人に訊いてみると、宿からわずか三分の場所にあった。僕が毎日通る道沿いで、ネットカフェと、ラーメンあすかに続く道。これなら苦もなく通える。
担当の女医さんは二世らしく、少し抑揚がおかしい日本語を話す。治療には問題ない。礼儀正しさと仕事の丁寧さは日本人のままだった。
一度治療した奥歯がすぐに欠けてしまった事を話すと、今度はなるべく欠けないようにと工夫してくれた。そもそも仮治療でセメントを詰めてもらうだけなので、注文そのものに無理がある。物を噛んだ時に一番力のかかる奥歯は、金属でなければ耐えられそうにない。日本へ帰ったらすべてやり直しになるが、保険を使えないので安くあげるしかない。
虫歯は全部で四本、三回にわけて治療するという。簡単に終わりそうで安心していると、週に一回しか治療してくれないらしく、三週間もかかるという。そこら辺はどうやらブラジル化されてしまっているが、ここはブラジルだから仕方がない。
二回目の治療。早起きして出かけると、先生が遅刻して待たされた。やはりここはブラジル。日本語がほとんど話せない助手の中年女性が 「サンジュプン待てる?」 と済まなさそうに訊ねてきた。
笑顔で大丈夫だと答える。僕はかれこれ四年間も無駄に旅をしている。三十分くらい歯医者の待合室で無駄を追加しても、僕の今後の人生にはこれっぽっちの影響もない。世の中には次の日まで列車が来ない国もあれば、日曜日の教会に牧師が酔っ払ってやってくる国だってある。三十分の遅刻を責める気などない。
宿のオバチャンもそうだが、移民二世までは少し怪しくても、きちんと日本語が話せる。しかし受付の若い三世となると、もう会話にならない。たとえ両親が日本人であっても、家庭での会話はポルトガル語なのだろう。将来日本へ帰るわけでもないから、日本人学校へ通うこともない。
文化そのものである言葉が、こうも急激に消えていくものなのかと驚かされる。その昔、祖国を棄て新天地を夢見て地球の裏側まで来た日本人。日本人でありながら、日本語を話せない子孫たち。ブラジル人として暮らす彼らの姿を見ると、逞しくもあり、切なくもある。
小さな売店や食堂、市場の屋台で移民一世の老人と言葉を交わすことがある。彼らの日本語は本物の日本語だが、僕の姿を見て最初に話しかける言葉はポルトガル語だ。きっと、僕は三世で日本語は通じないと思うのだろう。
一世たちが日本から持ってきた日本人である証、日本人の心と文化を伝えるための言語。その日本語を伝え残して欲しいと願うのは、旅行者の我ままに過ぎないのかもしれない。
待合室に積んであるポルトガル語の雑誌の中から、週間ビッグコミックだけを集めてゴルゴ13を読み漁った。五~六冊は置いてあったが、どれひとつとして号が繋がっていない。連載漫画にとって致命的な問題である。
ゴルゴがアイルランド共和国軍に暗殺依頼を受けたところで話が終り、次はいきなり関西国際空港でアメリカ大使館員に声をかけられる。せめて連載一回分飛ばす程度なら何とかなりそうだが、次の号が数カ月後だったり、年が変わっていたりするから話がまったく繋がらない。
舞台はアジアのどこかの辺鄙な空港に飛ぶ。CIAによって護送される爆弾テロリストを暗殺したあと、次はどこかの小さな無人島でどこかの小隊と戦っていた。話が途切れ途切れだからそれがどこなのかも、相手が誰なのかも分からない。
ゴルゴほど世界各地で神出鬼没な人もいないだろうと感心し、世界一の旅行者はゴルゴに違いないと思ったところで先生からお呼びがかかった。三十分のはずが一時間以上過ぎていたが、ゴルゴに熱中していたので苦にもならず、まだ先が読みたかった。
次の虫歯は根が深かった。ドリルで削り進めて行くと痛みが走り、麻酔を打った。仮治療で済ませてくれとお願いしていたが、欠けやすい場所だから銀を入れましょうという。
せっかく治療してもすぐに欠けてしまっては無駄だし、先生の言う通りにお願いすることにした。銀を入れるというからには、型を取るのかと思いきや、ネバネバした溶けかかった鉛のようなものを、削った穴の中にぐいぐい詰めていく。
その正体は何だかわからないが、先生は銀だと言っていたので、たぶん銀なのだろう。どのみち自分ではできないのだから、この際もう何でもいい。先生、頑張ってください。
最後の治療は来週の火曜日。旅に出て五年目を迎える日であり、35才になる日、僕はまたドリルで歯に穴をあけられる。
いつも更新楽しみにしています。
旅に出て4年が終わり、5年目を迎えるとは感慨深い日ですね。
歯の治療も終わり、まだまだ旅は続きそうですね。どこまで続くのか、楽しみにしています
初めまして。いつも楽しみに読ませていただいてます。今回の歯問題ですが、旅行中の方にアレなんですけど、多分カルシウムが足りないから虫歯頻発なのではないかと、ふと思いました。知人にも半年にいっぺんくらいの割合で計3本カナルサージェリーをやったのがいて、その事をうちの母(ナース)に言ったらば、そのようなゲスをしてました。お身体に気をつけて旅を続けてくださいな。し。
虫歯・・・私もよくなります(涙)。ここアメリカでは、もうご存知と思いますが治療費めっちゃ高いです。
神経抜いて歯をかぶせたときは12万円くらいしました・・・・ ブラジルでの歯医者の値段が気になるところです!!
サンパウロでの虫歯治療で、思わず投稿してしまいました。
私も今、左奥歯の虫歯に苦しんでいます。どういう訳か歯医者とケンカして最後まで治療を終えたためしがありません。
ヤットコをもって虫歯を抜歯してやると勢いこんだ老歯医者を突き飛ばして逃げだしたこともあるなー。
ところで、私が初めて海外に行ったのはブラジル。親戚の住むサンパウロで居候していただけなのですが、伯母さんの一人が歯医者。二世です。日本語できます。確か、高級住宅街の一角にあるんだけど、まさか同一人物ってとこないかなー。
その伯母さんに、虫歯あるんなら只で治してやる、っていわれたんだねー。それを憶いだしました。
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