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シンとメエちゃん

The Day 1184 - 2006-02-02 Thu 13:22 Cairo, Egypt… Maxi Priest Feat. Elisha La'Verne - Back Together Again
シンとメエちゃん

シンとメエちゃんの2人組みに出会ったのは、ええとあれは、2004年の9月、中国のゴルムドだった。

僕がラサへ向かう闇バスに乗り込むべく、闇客引きに案内されて闇宿の闇部屋へ入り、出発時間まで闇で待機していた時だった。

そこへ同じく闇客引きに連れられて、ドカドカと騒がしく現れたのが、シンとメエちゃんの2人組だ。

僕にも連れがいて、ぜんぶで4人の日本人が集まった。そこで闇客引きが闇の智恵を働かせて、僕らにバスではなく乗用車をチャーターして行けと言い出した。

そもそも中国だし、闇商売なのだから定価などはないのだが、僕らの出会いは、一緒にお金を騙し取られるという、決して忘れられない出来事から始まった。

シンは身長 180cm、スキンヘッドに筋骨逞しい格闘家。大学時代から総合格闘技をやってきたらしく、ハイキックの切れ味は抜群。組み付かれたら、一瞬で倒されて関節を決められて逃げられない。肉さえ食えれば満足で、何もついていないパンが嫌い。強いくせに注射と高い所が怖い。当時24才。

メエちゃんは、毎朝入念なメイクを欠かさない、女の子らしい女の子。海外に出るとめんどうになるのか、女性バックパッカーでお化粧をする人は珍しい。甘いものとシールが好きで、荷物の大半はメイク用品で占められている。将来、シンがお金持ちになることを希望している。22才。

2人の荷物で興味をひいたものがある。シンは2枚のパンツを持っていて、ある日それが洗濯紐に干してあって目が点になった。最初は白地に赤い水玉模様かと思ったのだが、よく見ると模様のひとつひとつはカニだった。

それも図鑑に描いてあるような、細部までリアルなズワイガニ。それが前にも後ろにも、びっしり並んでいる。かっこよくもないし、可愛くもない、なにせズワイガニ。渋すぎるし、何だか挟まれそうで怖い。このパンツを商品として真面目に作った会社の存在にも呆れるが、それに金を払ったシンも普通ではない。

メエちゃんには、これが無くなったら日本に帰るという大事な相棒がいる。パジャマを着た犬のぬいぐるみ。毎晩これを抱いて寝ている。名前を訊いたら 「イヌ」 だと言う。あぁ、わかりやすい。このイヌが無くなると、必然的にシンも帰国することになるので、シンはこのイヌの紛失を心底恐れている。

人のバックパックというのは、一体中に何が入っているのか非常に興味がわく。後にも先にも、一番珍しい荷物をバッグに忍ばせていたのは、このメエちゃんだろう。

ある日、メエちゃんのバックパックから日本のきゅうすが出て来た。よくある茶色の、ご家庭サイズのきゅうすだ。割れ物で、重くて、不恰好で、かさ張る。これ以上、旅とバックパックに向かない荷物を、僕は思いつかない。

日本からインドネシアへ飛び、マレー半島を陸路で北上して中国を抜け、その後きゅうすはネパールからインドまで旅をした。

ふたりの旅には、動物を見るという明確な目的がある。しかも強い動物限定で、シカだとか、キツネだとか、弱いのはどうでもいい。強い肉食獣か、でかい草食獣に限定されており、世界中の強い動物を見て、どれが一番強いのかを決定するのが目的らしい。

最初の目的地であるインドネシアで、コモド島のコモドドラゴンを見たという。写真を見せてもらったが、恐竜の生き残りのような、恐ろしく巨大なトカゲだった。

ふたりはその後、ネパールでサイを見て、インドでトラを見た。僕らは付かず離れず、合計で2カ月ほどの時間を共に過ごした。インターネットがあれば、お互いどこにいても連絡を取り合える。

アフリカのライオン、ゾウ、ゴリラ、アメリカのバイソン、アラスカの白クマ。ふたりには行くべき場所がまだまだあった。しかし、とても予算が足りないことを知り、早くもインドで旅を中断。旅費を稼ぐために帰国することになってしまう。

そしてそれから10カ月後。僕らはエジプトのカイロで再会を果たした。

僕がノロノロと旅を続けている間、ふたりは長野のとある工場で働いていた。シンは夜勤で一晩中レンズを磨いた。メエちゃんは、本人もよくわからない、説明を聞いても僕も理解できない部品を、一日中目視検査していたという。

なんとそれぞれ100万円の貯金をしてきた。資格も技術も経験もいらない仕事で、半年で100万円貯金できる。僕は日本の経済力の底力に感心せずにはいられなかった。100万円あれば、後進国で1年以上暮らせる。半年だけ働いて、1年遊んで暮らせるのだ。

実際、旅人の中には、しばらく日本で働いて旅に出る、それを繰り返す人が多い。稼いだ金を使い切ることなく帰国し、またしばらく働く。そうすると、人生の半分くらいは遊んで暮らしているにもかかわらず、たいそうな貯金までできてしまう。これはこれで、賢い生き方だと言えなくもない。

しかし実際には、シンとメエちゃんの言葉を借りれば、もう二度とやりたくない、というのが実情らしい。夜勤は体に堪えるし、1日12時間の労働はやはり辛い。100万円を得る為に、体に鞭打って働いたようだ。

ふたりはヨーロッパで2カ月を過ごした後、アフリカ大陸へやってきた。僕はこの広大な大陸を共に縦断すべく、懐かしい旅仲間の到着を待っていた。

メエちゃんはやはり、相棒のイヌを連れていた。きゅうすは置いてきた。僕もその方がいいと思う、あれは正直邪魔なだけだ。シンのズワイガニパンツは、ついに2枚とも廃棄処分になったらしい。ローテーションが短すぎて寿命を早めたに違いない。

ところが、そのズワイガニが、メエちゃんの手によって今回も旅の仲間に加わっていた。相変わらず図鑑のように詳細に描かれた、少し不気味な足の長いカニが、一匹だけパンツから切り取られてノートに挟まっていた。持ち主だったシンさえ知らない間に。

長期の旅人は、無駄だと思えるものを何かしら持っている。他人から見ればまったくもって無駄なものであり、本人も薄々無駄だとは思いつつも、ずっとバッグに入っている。僕のバッグには、一度も使ったことのない、足で蹴って遊ぶハッキーサックと、一度も開いたことのない中国語の参考書が2冊入っている。

メエちゃんのバッグには、ズワイガニの他にも、僕とシンが無駄だと思うものが、たぶん沢山入っている。シンのバッグはかなり無駄が少ない。あえて言うなら、高校時代の英語の参考書が無駄に思える。シンがそれで勉強しているところを、3回くらいしか見たことがない。もっとも、バッグから出してさえももらえない、僕の中国語の参考書よりはマシか。

いつも笑顔でどこへ行っても人気者になってしまうメエちゃん。何も物怖じしない、でかくて強いシン。僕らはまず、ケニアのサバンナを目指し、南下を開始する。ふと気づくと、エジプトの滞在が3カ月を越えていた。


加倉大輔2006-02-02 Thu 13:22 TrackBack
この記事の感想

エジプト、ダハブの海で、爆弾爆発、22名死亡!
何処も 危なくなったな!
北京オリンピック、、、、、

hayashi2006-04-26 Wed 00:25
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