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白砂漠の宇宙

The Day 1126 - 2005-12-06 Tue 21:31 Cairo, Egypt… Enya - Paint The Sky With Stars
白砂漠の夜

エジプトの西部に白砂漠と呼ばれる場所がある。地図にも白砂漠とは書いてないし、砂漠ばかりの国なので、自分で行ってはみたものの、はっきりした場所もよくわからない。

自分で行ってみたという表現は適切ではないかもしれない。僕の観光はいつでも人任せで、誰かに誘われたら付いて行くという、横着で簡単な方法だからだ。

旅をしていると、さすがに旅好きな人によく出会う。移動方法や観光情報も下調べ万全で、値段交渉も頑張ってくれて、僕はただ付いて行くだけでいい。

白砂漠もやはり、旅仲間に連れて行ってもらった。朝、バス停まで付いて行き、言われた通りにチケットを買ってバスに乗る。現地で群がってくるガイドの中から一人を選び、交渉してもらう。また言われた通りにジープに乗り、何の苦労もなく、日が沈む頃には白砂漠にいた。

「船頭多くして船山に上る」僕はいつもこの言葉を思い浮かべ、旅慣れていて交渉の上手い人がいれば、ぜんぶ任せて余計な口出しはしないことにしている。楽でいい。

白砂漠という名前から、きっと白い砂の砂漠だろうと考えていたが、想像とはだいぶ違った。白砂漠の白は石灰岩の白で、真っ白な硬い大地の上に砂を被せた砂漠だった。

砂の下から、蟻塚のような、時にはキノコの形をした奇妙な岩が、ニョキニョキと空に向かって生えている。当り一面見渡す限り、地平線の向こうまで、大小様々、無数の真っ白な奇岩が突き出ている。

石灰岩の真っ白な大地から生えた白い奇岩と砂。他には何もない、草一本生えていない。

ここは地球か?

風と砂がこの大地を削り、削り、削り、削った。恐らく何万年の歳月をかけて、蟻塚やキノコのような奇岩を作り出したに違いない。

擦りガラスというものは、砂嵐によって最初に作られたと聞いたことがある。砂粒のひとつひとつのエネルギーは微々たるものだが、その微々たるエネルギーが集合すると、ありとあらゆる、どんな硬いものでも削ってしまう。

砂漠だから雨は降らない、もしくは雨が降らないから砂漠なのだろう。水の力を借りずとも、風と砂だけでも大地は削られる。自然によって作られた風景は、いつも僕の想像力の領域を越えていて、驚愕と畏敬の念を抱かせる。

夜が訪れると、砂漠は漆黒の絨毯に覆われたように色を失った。足元には黒い闇があるだけで、砂を踏む感覚だけが、地面との距離と、そこにまだ地面が存在していることを教えてくれる。

手探りで砂の上に横になり、闇の大地を背にして、空を見上げた。

そこは、宇宙だった。

僕は地球を背負っていた。もしくは、ただ地球という小さな星の表面に貼り付いていた。宇宙はどこまでも広がっていて、果てし無く続いていた。

僕が今まで見た夜空の星々は、スクリーンに映し出された様に、平面上に並んでいたように思う。しかし、砂漠で見上げた夜空には、奥行きがあった。

天の川が地平線から反対側の地平線まで続いている。僕の背中の後ろに地球があり、地球の向こう側にもやはり、銀河の断面が続いているのを感じる。

何億光年も離れた星と星の距離の違いを、視覚で見ることはできない。夜空の奥行きは目に見えているのではなく、感覚として僕の体を包み込んだ。

宇宙には音を伝える大気がない、だからそこに音は無い。砂漠には音を生み出す物がない、風が眠りにつけば、砂も眠りにつく。音の無い世界はそのまま宇宙に繋がっていて、僕を終りさえ知れない星々の世界に漂わせた。

僕はただ、そこに存在しているだけだった。地平線に映し出された、巨大なキノコ岩の影と同じだ。僕は風に運ばれてきたかのように、偶然にそこに寝転がっており、僕の背中の後ろには、地球が宇宙の片隅に偶然に存在していた。

僕は地球の一部で、地球は宇宙の一部だった。そこには何かを隔てる境界線もなければ、違いさえもなかった。

宇宙のチリが集まって、偶然に僕になった。僕は数万年の後、キノコ岩になっているかもしれない。キノコ岩は、僕の子孫になっているかもしれないし、ずっとキノコ岩のままかもしれない。

背中の下の闇の砂も、見えない空気も、夜空を横切る流れ星も、銀河の向こうにある別の銀河も、今は偶然にそこに存在しているだけで、いつしか形を変えて、別の存在になるのだろう。

集まり、離れ、固まり、砕け、溶けて、分かれて、また集まって形を変える。動いたり、流れたり、転がったり、削られたり。命あるものにもなれば、命を奪うものにもなるかもしれない。

すべては僕の一部になり得るし、僕もまた、すべての一部になり得る。僕はこの宇宙を形作る、小さなチリの偶然の集まりでしかないのだから。


加倉大輔2005-12-06 Tue 21:31 TrackBack
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