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ベイルートの日々、ゆっくりな旅 イスラエルへ入国

死海のほとり

The Day 1052 - 2005-09-23 Fri 22:51 Ammon, Jordan… Chicane Feat. Maire Brennan Of Clannad - Saltwater
死海で読書

イスラエルとヨルダンとの境にある内陸の塩湖、死海。その名が示す通り、魚一匹おらず、生物の姿が皆無な、死の海。

塩分濃度が高すぎて生物が生息できない湖。僕は自分の目で、体で、死海を体験してみたくなった。是非とも行ってみたいと感じた場所は、エベレストベースキャンプ以来かもしれない。

都合よく、同室のインド系イギリス人が、一緒に死海へ行かないかと誘ってきた。朝7時半出発という。ヨルダンの首都アンマンから40km、早朝に出発する必要などないのだが、僕は、是非行きたいと即答した。

水着、タオル、サンダルを鞄に詰めた。イスラエル側はずいぶんと観光開発が進んでいるらしいが、ヨルダン側は手付かずで、小さな売店くらいしかない。1.5L の水と食料を鞄に追加して出発した。

タクシーと2台のバスを乗り継ぎ、最後は歩いて死海のほとりまで行く。わずか40kmの道のりに3時間以上を費やした。早朝に出発したのは、どうやら正解だった。

僕はまず、死海の大きさに驚いた。内陸の湖ではあるが、最長部で約80km、幅18km、面積は琵琶湖の約1.5倍。最も深い所で400m、立派な海だ。

死海の水面は地球上で最も低く、海面下397m。僕らが通常の海に浮かぶとき、その場所は死海のはるか上空ということになる。逆にここが通常の海だったならば、太陽の光が全く届かない深海に位置することになる。

地球は変化に富んだ惑星だ。僕はこの惑星の表面を行ったり来たり、登ったり下ったりして旅をする。地球の大きさと偉大さを感じるとき、自分が地面を這う一匹の蟻のように思える。途轍もなく大きな存在の前では、一匹の蟻など無に等しい。

水着に着替えて、死海の水面に仰向けに体を横たえた。浮かぶ。ものすごい浮力で体が持ち上げられる。手足をバタバタさせる必要などまったくない。頭どころか、肩さえも水面上にある。ヒザから下を空中に持ち上げることもできる。

顔を水につけて目にでも入ったら、それこそ目も当てられないだろう。しかし肩まで浮いてしまうくらいだから、その心配はない。頭は魚釣りのウキのようにピンと立って水面上にある。

うつ伏せで泳いでみた。ヒザから下が水面上に出てしまうので、足をバタバタできない。なんと死海ではクロールができない。僕はすごい発見をしたような気になって、ふと思いついた。僕はそもそもクロールができない。

平泳ぎは楽にできる、やる気の無いアメンボ、浮き過ぎたカエルといった感じ。このまま対岸のイスラエルまで泳いで行けそうだ、疲れたら浮いたまま休めばいい。

問題は長時間死海に浸かっていると、体の塩分が抜けて死んでしまうらしい。それにもう一つ、余りにも浮力が強いので、僅かな風でどんどん流されてしまう。水に浮かんだ発泡スチロールのような状態だ。

あぁ、もう一つ重要な問題があった。隣国がすべて敵だらけのイスラエル、泳いで行こうものなら、射殺されてそのまま塩漬けになるかもしれない。沈むこともなく、いつまでも腐らず、塩の鎧を纏って浮遊し続けるのだろうか。

数分浮いていると、足の先がひりひりしてきた。サンダルで擦れたできた小さな傷が痛む。傷口に塩を擦り込むとは、こういうことらしい。すぐに我慢できない激痛となり、10分と経たない内に死海遊泳は終了した。

プランクトンさえいない水は澄んでいる。手でかき回すと、まるで透明なオイルを流し込んだように、水面にドロドロとした模様が浮かぶ。ぬめりを帯びており、温泉のように肌がすべすべする。

僕はどこかの工場からオイルが流れ込んでいるのかと真剣に思った。それは高濃度の塩分が作り出す、不思議な水だった。表面層の塩分濃度は20%、海水の約5倍、底層では30%もある。

死海に流れ込むのは、ヨルダン川のみで、排出河川は無い。出口がなければ湖が溢れてしまいそうだが、乾燥した気候が流入量と同じ分だけ水を蒸発させ、平均水位を保っている。

昔ながらの塩作りというのを、テレビで観たのを思い出した。背の高い四角いやぐらを組み、内部に大量の木の枝を逆さに吊るす。やぐらの上まで登り、木の枝に向かって海水をぶちまける。

木の枝は何段も何段も吊るされており、海水が枝を伝わってポタポタと落ちて行く。風が吹き抜けて、わずかに水分を蒸発させる。やぐらの一番下は水槽になっており、落ちてきた海水がそこに溜まる。

溜まった海水を汲み、再び上からぶちまける。何度も何度も繰り返すうちに、塩分が濃縮され、最後に鍋で煮れば塩ができる。

大自然は、その蒸発と濃縮を繰り返す塩作りの作業を、死海という途方も無い巨大な装置を用意して行っていた。

死海のほとりでは、結晶となった塩が、太陽の光を反射して美しく輝いていた。


加倉大輔2005-09-23 Fri 22:51 TrackBack
この記事の感想

1ヶ月に及ぶ改良の成果か表示速度が早くなりましたね。前は、全部表示されるまでの間、離席していましたから。(笑)

死海の写真、小学生の時に見た図鑑と一緒だったので、懐かしくもあり、嬉しかったですよ。

日本は、残暑が終わり、ようやく秋らしくなってきました。道中、お気をつけて。

にしざわ2005-09-26 Mon 00:52

みんなが想像する、正しい死海の写真に大興奮しました。

アレルギーの子が海に入ると体質改善とか聞きますが、死海はすごく悪くなるかすごくよくなるかどちらかな気がします。

かえるは海に入ると塩分で体の水分が全部抜けて死んでしまうそうです。

どうでもいいですね。はい。

aya2005-09-26 Mon 01:58

「死海」を小型プールで実現出来ないかなと、以前から考えていたのですが、「傷が有ると痛い」長居は無理なのね、再考せねば。

hayashi2005-09-26 Mon 09:26

 味は? ねぇ、味は?

るすい2005-10-05 Wed 02:02

松尾芭蕉が 世界の旅 をしたら こんな風に
なるのかなあって、ふと 思いました。とても魅力的な文章に美しい写真 一人で見るのがもったいないくらいです。

匿名2005-10-14 Fri 22:08

死海には魚が居るんですよ!とっても小さくてあまり知られていませんが。。。

ハナ2006-08-06 Sun 22:00
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