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旅は出会い 死海のほとり

ベイルートの日々、ゆっくりな旅

The Day 1045 - 2005-09-16 Fri 23:58 Beirut, Lebanon… Embrace - All You Good Good People
地中海にて、ゆっくりな時間
流れ行く時

レバノンの首都、ベイルートへ来て1カ月が過ぎた。前々からやりたかった、サイトを CSS で書き直すという作業に没頭していた。

表面上は何も変わっていないが、内部のコードを大幅に改良した。400ページを越すサイトを、隅から隅まで書き直す作業は想像以上に大変だった。

サイトが大きくなるに従って、その場しのぎの継ぎ接ぎが増えてきた。まるで伸び過ぎたボウズ頭か、汚れすぎた靴のように、僕は元プログラマとして気になっていた。

何の話だか分からない人は、僕がアラビア語交じりで寝言を喋っていると思っていただければいい。寝言は何を言っているのかよく分からないが、無条件に面白い。

サイトの更新をそっちのけで、自己満足の世界に浸っていたわけだが、舞台裏を整理整頓できて気分がいい。喉につかえていた魚の小骨が取れたような、映りの悪いテレビを叩いたら画像が鮮明になったような、出そうで出ないウンコが… この例えはよそう。

2週間程度で終わるかと思っていたが、実際は丸々ひと月も費やした。もしこれが仕事だったなら、大幅に納期を遅らせたことになる。

顧客に頭を下げ、上司に睨まれ、プロジェクトは赤字に転落し、来期の昇給は望めない。それでも逃げ出すわけにはいかず、睡眠時間を残業時間に割り当て、ストレスを溜め込んで、命を削らねばならない。

しかし、今の僕は小学生よりもお気楽な身分だ。宿題の算数ドリルのためにワンピースの最新巻を我慢する必要はない。ホリエモンの政界デビュー失敗について雑誌に記事を書いてくれと依頼されることもない。つまり、納期を心配する必要などない。

僕がパソコンに没頭している間も、僕の周りの世界は動いていた。

多くの旅行者がやって来ては去って行った。エアコンが壊れて修理屋が来た。水が漏れていたトイレの水道も修理された。数日後にはまた漏れ出し、再度修理された。

日本から新しいマウスと本が届いた。ベイルートで爆弾テロが3回起こった、数人が死んで、数十人がケガをした。アフガニスタンで日本人2人が殺されたと、BBC が5秒で伝えていた。僕も通った場所だった。

カトリーナがニューオリンズを破壊していった。学生の頃訪れた街並みが無残な姿になっていた。地球温暖化が進むと自然災害が巨大化する、環境問題の本には必ずそう書いてある。その始まりなのだろうか。

じゃぁさようなら。元気良く出て行ったスイス人が、2週間後に戻ってきた。僕が同じ部屋の同じベッドで、同じようにパソコンに向かっているのを見て、驚いて、呆れて、再会を喜んでくれた。

ゆっくりな旅には、ゆっくりな旅にしかない楽しみがある。

宿で働いている子供たちは、いたずら好きで、寝ている僕の足の裏をくすぐり、大声を出し、ベッドを揺すって起こそうとする。悪ふざけが酷い、最初は疎ましかった。

しかし僕が夜遅くまでパソコンをやっているのを知り、説明が面倒なので仕事だと教えると、僕を起こさないように静かに掃除するようになった。僕が目を覚ますと、それは決まって昼過ぎだが、ダイスケ、ダイスケ、と大声で呼びかけてくるようになった。

近所のネットカフェの女主人は、東洋人が嫌いなのか、僕が嫌いなのか、愛想が悪い。挨拶をしても、返事どころか完全に無視。それでも必ず挨拶をして、帰りにありがとうを忘れず、1カ月も繰り返していたら、最近ちょっとだけ笑顔で迎えてくれるようになった。旦那の方は最後まで愛想が悪かった。この夫婦の家庭には笑顔があるのだろうか、心配になってしまう。

そのネットカフェにやってくる、小学生くらいの女の子たちがいる。道端で僕を見つけて、拙い英語で挨拶してくれた。しかし、何度僕は日本人だと教えても、彼女たちの第一声はハロージャッキーチェンだ。

僕が今まで食べた中で、一、二を争うほど美味いサンドイッチを作る店がある。あまりの美味さに、毎日のように通った。今では店の主人が飛び切りの笑顔で迎えてくれる。僕が日本人だと知って、お辞儀までするようになった。

現地の人にしてみれば、僕らはただ通り過ぎるだけで、もう2度と会うことは無い旅行者だ。しかし、ゆっくりな旅では、2度3度どころか、10回も20回も顔を合わせる。

いちいち大袈裟に、やぁやぁまた来たよ、とは言わない。ただ客として顔を合わせる。たったそれだけの事だが、やがて名も知らない人々が、心を開いてくれる瞬間がやってくる。

その瞬間、ごく普通の町が、店が、少し違った場所になる。

ごく普通の人々が、僕の中で、少し特別な存在になる。

僕のゆっくりな旅に、彩りが与えられ、想い出が刻まれる。


加倉大輔2005-09-16 Fri 23:58 TrackBack
この記事の感想

御苦労様、<<サイトを CSS で書き直すという作業に没頭>>私には皆目見当も付きませんが。
1ヶ月26000もの訪問者!スゴイですね。
老寨山旅館、ボチボチですわ、後継者”喜多郎”の成長をの日々でさ。18日は中秋「月餅」よ。好い旅を。

hayashi2005-09-18 Sun 02:01

ごく普通の町並みが、特別な物になって、いつか懐かしい物になる。。まさに旅の醍醐味ですね。私も来年の初めから長期旅行に出るつもりですが、早く出たくてしょうがなくなりました(笑)

rei2005-09-18 Sun 05:46

そうねぇー、死亡事件が5秒で放送されてると、ギャップを感じてしまうねぇ。
だいちゃんの文章は、その風景と匂いが伝わってきそうでいいですよ、なかなか。

kameishi2005-09-21 Wed 10:18

 作業は忙しかったようですね。
 いつもながら、good!な文章っス!

るすい2005-10-05 Wed 01:56
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