Template Last Updated: "2010-02-01 Mon 20:37:34"
Home トップページ
世界一周旅行ときどき日記 記事一覧
テヘランで怪しい男に出会った イスタンブール行きの切符をください

怪しい男は森さんと名乗った

The Day 948 - 2005-06-11 Sat 14:53 Tehran, Iran… Afroman - Let's All Get Drunk
モスリム3人娘

男は自分のことを 「森さん」 だと名乗った。モで始まる難しい名前なのだが、日本人は発音できないし、覚えられないから、日本では森さんと呼ばれていたらしい。実際に本名を聞いたが、真似して言うことさえできなかった。

助手席の男は、妹の旦那らしい。

「ムコさんね」

この瞬間から、彼の名前は 「ムコさん」 になった。

ムコさんは日本語も英語も話せない、会話はすべて森さんの通訳となった。森さん、33才、ムコさん34才。僕と森さんは、とてもそうは見えないが、同い年だった。

森さんは久しぶりに日本語を話せて上機嫌らしく、休みなしに後部座席の僕に話し続けた。

今日は親戚の結婚式だった。けど行きたくなかったので、ムコさんと共謀して有りもしない用事を作り上げ、ムコさんの家で酒を飲んでいたらしい。そして今、上機嫌になって町をドライブしていたというのだ。

日本語を流暢に話す怪しい男の車は、酔払い運転だった。

モスリムが酒を飲んでいいのか。僕が質問をすると、

「ぜんぜん大丈夫。家で飲む、大丈夫。外はダメ」

同じイスラムの国でも、パキスタンやアフガニスタンとは随分と違うものだ。イラン人男性でモスリムのパジャマを着た人は一人もいない。女性は髪の毛は隠しているものの、顔はきちんと化粧して、体の線のわかる服を着ている人もいる。一番驚かされたのは、若い男女が手を繋いで歩いていたことだった。

怪しい上に酔っ払いだったが、僕は悪い人間ではないと判断した。逆に森さんについて、もっと話を聞きたくなった。

日本では内装工事の仕事をしていたらしい、一日働いて11,000円もらって、夜まで働けば倍額もらったという。月に60万もらったこともあるというから、ずいぶん頑張って働いたのだろう。車は MR2 も含め、4台持っていたと凄いことまで言い出した。

日本に好きな女性がいたが、自動車事故を起こしてしまい、イランへ強制送還されて会えなくなったという。会いたくて会いたくて、日本へ何度か電話したが、彼女は引っ越してしまい連絡が取れなくなってしまったのだとか。

それでも好きでしかたなかったが、強制送還された身では、もう会うことはできない。悩みに悩み、自殺まで考えたという。

僕は森さんの昔話に同情した。

でもまてよ、なぜ交通事故程度で強制送還されたのだろう。詳しく事情を訊いてみると、森さんはあっさりと言った。

「ビザ切れてたね、運転免許も持ってなかった」

やっぱり悪い奴だ、車を止めろ!! お、降ろしてくれっ!!

僕は笑った、笑うしかなかった。それはどう考えても森さんが悪い、同情の余地さえもなくなってしまう。4台の車を買ったのかさえ怪しくなる。

今でも日本が大好きで、また日本へ行きたいという。しかし現在、日本政府はイラン人に対して、観光ビザさえも発行しないという。理由は明らかだ、観光ビザで入国し、そのまま不法就労するイラン人があまりにも多いからだ、森さんのように。

森さんは日本で貯めたお金を元にして不動産業を始めた。アパートを買い、それを改修工事して高く売って儲けているらしい。自分は社長だという。結婚して、3才の娘がひとりいるらしい。

元不法就労者だろうが、現在酔っ払い運転手だろうが、立派に身を立ててイランで暮らしている。追い出されたにもかかわらず、今でも日本が好きだと言い、僕を日本人だと見て声をかけたらしく、何となく憎めない。

森さんは市内を観光ドライブした後、ムコさんの家で、僕にイランのお酒を飲ませ、次に母親の住む実家へ連れて行ってくれた。そこには結婚式から帰って来た森さん一族が勢ぞろいしていて、突然現れた日本人をあらん限りの笑顔でもてなしてくれた。

デジカメで写真を撮ってあげると、子供も大人も大喜び。パソコンがあれば写真をコピーしてあげると言うと、そこに居た姉の娘が最近パソコンを買ってもらったと言う。13才の娘は喜んで、拙い英語で一生懸命話しかけてきてくれた。

森さんの姉とその娘を車に乗せて、ムコさんも一緒に、今度はお姉さんのお宅訪問となった。

家では姉の旦那さん、その年の離れた弟、下の7才の娘がもう一人いて、ここでも賑やかにもてなしてくれた。また写真を撮ろうということになり、下の娘は服まで着替えてきた。髪が腰まであり、真っ白な肌をした人形のように可愛い女の子だった。

お姉さんの旦那さん、つまりこの家のお父さんは 43才。イラン・イラク戦争の際、敵地でイラク軍に捕まり、5年間も捕虜生活を送ったらしい。誰もが当然死んだものだと思っていた。1988年に戦争が終り、開放された捕虜の名前がテレビで放送され、このお父さんの名前を聞いた時は、家族で驚きと歓喜の声をあげて喜び合ったという。

若く逞しかった兵士はガリガリに痩せこけ、髪の毛は真っ白になってしまっていた。そのせいだろう、僕は13才と7才の娘の父親だと聞かされるまで、彼のことを祖父だと思っていた。

今は町を見ても、人々の暮らしぶりを見ても、表向きは豊かだが、この国の戦争体験はまだしっかりと生きているのだ。そしてその捕虜生活を送ったお父さんの、年の離れた弟は、現在2年間の兵役を務めている最中だという。

奥さんが台所で忙しく働き、小さな娘たちがそれを手伝う。お茶が運ばれ、果物が運ばれ、最後に夕食が運ばれてきた。酒が運ばれてこないのは、きっとこれが普通で、やはり森さんとムコさんは、不良のモスリムなのかもしれない。

道端で拾っただけの日本人を、家族全員でもてなしてくれた。僕は腹いっぱいになり、心まで満たされ、ふと気づくと11時になっていた。宿へ帰るという段になり、ムコさんが森さんの通訳を通して僕に忠告してきた。

「いい人ばかりではないから、簡単に車に乗ってはダメだよ」

僕は、うんうんと頷いてこう言った。

「気をつけます、特に酔っ払いの2人組みの車にはね」

みんなが大笑いして、外まで見送りに出てくれた。僕はひとりひとりと握手してお礼を述べた。お父さん、兵隊の弟、下の7才の娘、そして13才の娘に手を差し出すと、ひゃぁと驚いて声をあげた。

ここはイスラムの国であることを忘れていた。13才の娘は、もう女として扱われていて、僕が客として家に居る間、決して髪の毛を隠したスカーフを外さなかった。当然、握手は許されない。

僕はごめんごめんと失敗を詫びながら、女性たちとの握手は無しで、お礼だけを述べて、車に乗り込んだ。

森さんとムコさん、そして明日基地へ戻るという兵隊の弟も一緒だった。車が発進すると同時に、隠してあった酒が出てきて、運転しながらの酒盛りが始まった。兵隊の弟は、基地では飲めないと言って勢い良く酒を煽り始めた。僕も飲んだ、ムコさんも飲んだ。

森さんも運転しながら飲んでいる。飲酒運転はイランでは酷い罪だろうと訊くと、森さんは楽しげにこう答えた。

「あぁ、4人とも牢屋ね」

やっぱり悪い奴だ、車を止めろ!! お、降ろしてくれっ!!


加倉大輔2005-06-11 Sat 14:53 TrackBack
この記事の感想

 もうテヘランにお着きですね。この三年間、夏休みの度に、イランを、さまよってましたので、偉そうに助言しておきます。まずは、横断の際に、車に注意してください、その上、車の後ろからバイクが飛び出してきます。次に日本に行ったことのあるイラン人とは、よく逢いましたが、多くは日本での良い思い出をもっていたためか、不快にさせられたことはありませんでした。アイスクリームやらファルーデの冷菓を味わってください。ハチミツを舐めてみてください。ピスタチオをかじってください。生もあります。映画を見てください。ストーリーが緻密ですので、必ず理解できます。テヘランでは絨毯博物館へぜひ。

fuyunomori2005-06-16 Thu 23:36

私、テヘランで森さんに会ったことあるかも(笑
日本語流暢な人=悪い人の法則は、イランでは逆みたいです。私も一ヶ月の滞在の間、10回以上も家に招かれて、楽しく過ごさせてもらいました。家に泊めてもらったことも何度もあります。
日本滞在経験のあるイラン人は必ずこう言います。「私は日本にいる時に日本人に非常にお世話になったから、イランでは私があなたを助けてあげたい」と。
日本でのイラン人に対するイメージなどを考えると、かなり胸が痛むのですが、私自身、イランに来て、その偏見を捨てられたことが嬉しかったですし、周りの人たちにも、イラン人は素敵な人たちだよ、と伝えることにしています。
次、タブリーズになってますが、イスファハンには行かれないんですか?

N2005-06-17 Fri 12:33

うわあ、なんて言うか中途半端っていうか適当ですね(笑)
凄い凄い、上のコメントをしたお二人さんはバックパッカーなんでしょうかね?
相当恥ずかしながらイスファハンとか知りませんよ困ったな。
でもこんな短いコメントだけでも何なんでじゃあ今日知った事をちょいと・・・・・・赤いものは牛を刺激するって言うけど本当は牛の眼はシロクロにしか見えてなかったんだって(´Å`*)

ニコレット・ジョー2005-06-17 Fri 21:11

これぞ旅の醍醐味ですよね。
怪しい人についていったらいけない、とガード固めて
たら、こんな出会いもなかったわけですし。
怪しいけど、ついていくか、いかないか、これって
判断に迷いますよね。
私自身、すっかり短期の旅ばかりになって、こういう経験が
少なくなってきたので、うらやましく思えます。

くまけん2005-06-17 Fri 23:13
世界一周旅行ときどき日記 記事一覧
テヘランで怪しい男に出会った イスタンブール行きの切符をください
この記事への感想を書く
世界一周旅行ときどき日記 記事一覧
テヘランで怪しい男に出会った イスタンブール行きの切符をください