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アフガニスタンの恋 テヘランで怪しい男に出会った

マシュハドの名前の無い宿

The Day 943 - 2005-06-06 Mon 23:44 Mashhad, Iran… Salt-N-Pepa - Let's Talk About Sex (True Confessions)
名前の無い宿

アフガニスタンのヘラートから国境を越えてイランへ。バスで6時間… のはずが、なぜか12時間もかかった。早起きして5時半に宿を出たのに、目的のマシュハドへ到着したのは、夜の10時を過ぎていた。

夜中の宿探しより面倒なものはない。安宿は開けてくれない場合も多いし、道だってわかりにくい。何よりも人の居ない、暗い町をいかにも重そうなバッグを背負って歩くのは、カモがネギとコンロと調味料を揃えて、熱燗を手酌で一杯やりながら歩いてくるようなものだ。

ところが僕の心配を他所に、マシュハドの町はお祭り騒ぎと言えるほど賑わっていた。車はたくさん走っているし、人は楽しげに歩道を歩いていて、親子連れまでいる。ネオンサインの綺麗な商店が並び、立派なホテルがあっちにもこっちにも誇らしげにライトアップされ、夜の街を彩っていた。

僕はイランがどんな国なのか、これっぽっちも知らなかった。隣はアフガニスタン、反対側はイラク、この戦争のイメージしかない国々に挟まれたイラン。そこは思いがけず、豊かで、綺麗で、先進国へ来てしまったと思ったほどだ。

サンドイッチ屋がある。ソフトクリームまである。エスカレーターなんて久しぶりに見た。天体望遠鏡なんてものまで売っている。道端に冷水器があり、水がタダで飲める。路上に流しっぱなしの汚水もなければ、ゴミの山もない。みんな洗濯したてのような綺麗な服を着ている。猛烈な勢いで白い排気ガスを吐き出す車もいない。そうだ、物乞いはどこだ、物乞いがいないじゃないか。

僕はどうやら、ずいぶんと豊かな国へ来てしまったらしい。

お祭り騒ぎのような町は、実際にお祭りだった。僕がマシュハドへ到着した翌日の6月4日は、イマーム・ホメイニ氏の逝去追悼記念日だったのだ。

このホメイニさん、どんな人かと言うと、イスラム教シーア派の神学・法学の権威。イラン共和国を成立させ、イスラム革命を指導し、イランの宗教・政治の最高指導者だった人。すべての紙幣にホメイニさんが印刷されていて、この国で知らぬ人はいない。

もちろん僕はイラン人でもないし、親戚にイスラム教徒がいるわけでもないので、知る由も無い。

すべての紙幣に印刷されていると言えば、中国の毛沢東だ。日本ならば、えぇと日本ならば… 坂本竜馬にしとこう、僕は個人的に坂本竜馬を一万円札にしてほしい。五千円札は忠犬ハチ公で、千円札はおしんにすべきだ。二千円札? 僕は見たことが無い。

話を戻そう。

マシュハドの町は安全だったが、追悼記念日のお祭り騒ぎで、ホテルはすべて満室だった。高級ホテルからボロ宿も含め、荷物を抱えたまま30軒くらいは回っただろうか、裏道の奥の奥で、ついに見つけた宿は、まさにバックパッカーおあつらえ向きの安宿だった。

宿に名前は無い。

名前はなんだと訊くと、名前なんか無いという。名前の無い宿がこの世に存在していいのか。客室は10室ほどあるし、客もちゃんと泊まっている。共同のホットシャワーもあるし、冷蔵庫にコンロまである。

決して綺麗でも豪華でも無いが、安くていかにもバックパッカーが好みそうな宿で、マシュハドのど真ん中に位置していて便利だ。しかし肝心の名前が無い。

名前も無いのに、どうやって客がやってくるのか不思議だが、そういう僕もこうして運良く、もしくは運悪くやってやってきた。

宿のオヤジは陽気で、顔を合わせると精一杯大きな声で挨拶をしていくのだが、このオヤジ、話せる英語は数少ない。ハロー ハワユー ファイン サンキュー。と自分で挨拶して自分で応えて、ひとりで挨拶を完結させてしまう。僕は口をパクパクさせて、あぁぁ、とか、へぇぇ、とか言うだけだ。

ある日のこと、僕は中庭で溜まった洗濯物を洗っていた。ついでに着ていたTシャツも洗って、上半身裸で洗濯をしていると、宿のオヤジが通りかかった。いつものごとく、ひとり完結の挨拶をひとりで済ませると、何やら、ポリス、ポリスと叫ぶではないか。

何がポリスなのかと、オヤジの身振り手振りを観察してみると、どうやらこういうことらしい。ここはイスラム国なんだから、上半身裸でいると逮捕されると言うのだ。宿の中でも逮捕されるのか、僕が身振り手振りで訊き返すと、警察は中までやって来ると言う。

「上半身裸で洗濯の日本人男性逮捕、鞭打ち10回」

なんて新聞記事になったら大変だ。話のネタ的にはかなり面白いが、そこまでネタのために身を張るつもりはない。僕は素直に部屋まで戻り、Tシャツを着て洗濯の続きに取り掛かった。

オヤジはそうだそうだ、と僕を見て満足すると、人差し指と中指の間から親指を突き出した拳を僕に見せる。もう一方の手でピースサインをしている、どうやらそれが値段らしい。つまり女を買わないかと訊いているのだ。

このイスラムの国で女を買うというのは、見つかれば死刑かもしれない。もちろん売春は存在する。売春の存在しない国など、この地球上にはない。

僕はちょっと面食らった。さっきまで上半身裸では逮捕されると注意していたオヤジが、今度は女を買わないかと言い出した。

誰か警察呼んでこい。僕はそう思いつつオヤジを適当に追い払い、ハッとある考えが頭に浮かんだ。もしかしてここは売春宿、だから名前が無いのかも…。


加倉大輔2005-06-06 Mon 23:44 TrackBack
この記事の感想

へ・・・・名前の無い宿ですかぁー。
売春宿だったかは不明なんだろうけれど
それはつまり集客意思が無いってことなのかな。
それとも適当になんとかなるのかな。

日本の東京は今日は雨で結構寒かったんですが、
そっちも雨とか降るんでしょうか。
調べよっと。

ニコレット・ジョー2005-06-15 Wed 23:55

うわぁぁ〜、とうとうテヘランに来たんですね!テヘランは意外に都会で平和らしい…
という話をイラン人から聞きました。もちろん、平和の度合いは日本と違うでしょうから、
くれぐれも気をつけて下さい。例のリクエスト、よろしくお願いしますね。
日本は梅雨入りしました。
では

にしざわ2005-06-16 Thu 00:04

名無しの宿、面白い体験ですね。情報を仕入れて下さい、言葉が通じないか、手振り見真似でさ。ミャンマーも面白かったよ。裏町が人間を観察するのに最高ですから。

hayashi2005-06-16 Thu 01:28
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