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アフガニスタン周遊バスの旅 ~ 地雷と竜巻と蜃気楼 マシュハドの名前の無い宿

アフガニスタンの恋

The Day 938 - 2005-06-01 Wed 22:07 Herat, Afghanistan… Sinead O'Connor - Secret Love
チャドリを着た女性たち

「僕の秘密を教えよう」

毎日通っているレストランに英語の上手な若者がいる。彼はいつも、僕や日本について何かしら質問を用意して待っている。習慣、物価、仕事、男女の話、宗教や神の存在を信じるかなど、僕にとっても興味深い。

彼の名はマスード、22歳。アフガン難民の子としてイランで生まれ育ち、大学まで進んだ。イラン政府が難民に対して不当に授業料を吊り上げたために勉強ができなくなり、母国の大学へ編入するためにアフガニスタンへやってきたという。しかし、この国の大学の現状は期待に沿うようなものではなく、この先どうするかを考えながら、ヘラートにあるレストランでアルバイトをしているらしい。

本当は家族の住むイランへ戻りたいが、アフガニスタンのパスポートを発行してもらえず、帰ることもできなくなり、八方塞なのだという。パスポートそのものの在庫がなくなってしまい、発行しようにもできないのだとか。いつ新しいパスポートが刷り上るのかもわからない。

彼は難民でありイラン国民ではないため、イランのパスポートを持つ資格もなく、片道の出国許可証だけを持ってアフガニスタンへやってきたらしい。

ある日、彼はテーブルの反対側に腰掛けて、冒頭の言葉でこう切り出した。

「僕の秘密を教えよう」

1カ月半ほど前、彼はマザーリシャリフの親戚の家を訪ねた。親戚の家族は彼を暖かく迎えて、もてなしてくれた。そこには一人の娘がいた、再従姉妹に当たるという。その子が10歳の時に一度会ったことがあるが、今回久しぶりに再会した。

アフガニスタンの女性は、顔まで完全に隠したチャドリという服を着ている。目の部分だけメッシュの窓がついていて、彼女達はその窓を通して外の世界を見ている。女性に話しかけることは許されない。この国には恋愛どころか、出会いさえもないのだ。

高校生までは男女別々の教室で勉強するが、大学になると一緒になる。そのため大学では少しばかりの出会いがあるが、運良くデートまで発展しても、一緒に並んで歩くなどは犯罪行為に等しく、わざと離れて他人の振りをして公園を散歩するのが精一杯だという。

キスどころか、手を握る事さえもできない。結婚前の性行為など絶対にあり得ないし、処女でなければ結婚はできないのだという。僕が驚いて、性行為なしに結婚なんて考えられないと話すと、彼は目を丸くした。

話を戻そう、彼の秘密の話だ。親戚の娘は立派な大人の女性になっていた。しかし、いかに親戚だとはいえ、そうそう大っぴらに会話ができるというわけでもないらしい。

そもそもマスードは、母親と妹以外、女性とまともに話などしたことはないはずだ。そして相手も同じだろう、家族以外の男性から完全に隔離された世界で生きているのだ。

彼らはお互い惹かれあっているのを感じた、少なくともマスードは彼女に恋をした。そしてある日、彼は意を決して手紙を書いた。

「君に惚れている、君も僕が好きなことはわかる。結婚したい、僕が仕事を持ち、結婚の準備ができるまで待っていて欲しい」

親類同士が結婚することは何も珍しいことではないらしい。マスードには親同士が進めている、従姉妹との縁談話があるという。

2日経っても、3日経っても返事が来ない。マスードは彼女に詰め寄り、なぜ返事をくれないのかと問い質すと、親に知れては大変なことになってしまう、返事はできませんと返ってきた。

しかしマスードは強気だった。ならばもう、君の事は金輪際忘れてしまう、もう考えもしない。逆にそう撥ね付けると、彼女の方が折れた。

そうして彼らは恋に落ちた。

しかし、だからと言って仲良く話をできるわけでも、回りが気を利かせて、若者たちを2人きりにしてくれるわけでもない。逆に独身の2人が、とんだ事になりはしないかと監視されてもおかしくない世界だ。

彼らは親の目を盗んで手紙を交換した。2人きりになるわずかな瞬間に、サッと手紙を受け渡しして、お互いの恋心を深めたという。まるで授業中に教師の目を盗んでメモを渡す小学生と同じだ。マスードはその話をしながら、心躍る素晴らしい時間だったと話してくれた。

今は遠く離れてしまった。マスードは彼女の声を聞くために、時々親戚の家へ電話するのだという。電話口に出た彼女が電話を取り次ぐまで、ほんの一言か二言、その声を聞くためだという。

イスラムの教えこそがすべてである世界で生きる若者達。彼らの青春のほんの一瞬を垣間見た気がした。


加倉大輔2005-06-01 Wed 22:07 TrackBack
この記事の感想

いつも更新を楽しみにしています、ジョーです。
す・・・すごいですね、こういう世界もあるんですよね。
以前からずっと考えてきた事なのですが、やはり、メディアによって自分とはかけ離れた価値観、生活の実態や存在を知っていても、多くの人の頭にはその人の暮らした場所のみの価値観しか根付かないということ。一方で飢えた人間がいると知っていてもやはり満腹になれば残す、捨てる。実際にその有様を見ない、感じない、経験しない限りは、人間は変わる事のない怠惰な自分勝手な存在なんだと、思ってしまいます。「世界がもし100人の村だったら」などの特集も直後は人の心に響きますが、翌日には何も無かったそれまでの日常と何ら変化しない生活を送るなら、一体知識だけ、ただの情報としての知識だけ増やして何の意味があるのかと、不可解でなりません。
あ、ごめんなさい何かマジメに語ってしまいやした。
旅、ホントに頑張って下さいよ!もちろん表示は遅いけどあの鮮明にしてデカイ写真には、個人的にめちゃくちゃ感動してます。是非これからもデカイままでお願いしまっす!では体にお気をつけて!

ニコレット・ジョー2005-06-06 Mon 12:42

 6/1に書き込みされてから日にちが経っている。ムムムッ……少々心配しております。
 いつも面白い話で。彼の「秘密」を早くしりたい!

るすい2005-06-12 Sun 04:30
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