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もうみなさんご存知のように、僕はボウズ頭で世界旅行をしながら、ボウズの素晴らしさを世の人々に示し、伝え、広めるべく、地道な活動をコツコツと行っているわけだが、今回はパキスタンのペシャワールで行った活動の内容をご報告しよう。
それはいつものように暑くて、ハエが飛び交い、街中のスピーカーから最大音量で 「アーアーァーアーイイェーーアーーァ」 とモスリムたちの祈りのコーランが聞こえてきたころだった。
僕は少し伸びてきたボウズ頭を、僕が定めた規定範囲内に戻すべく、つまり短くすべく、床屋へ行こうと思った。いつもは自分のバリカンを使うが、やる気があるのか無いのかよくわからないコーランの放送を聴いていると、どうも自分でやるのが面倒になり、床屋へ行きたくなった。
安宿を25年も経営しているという、すっかり宿とセットになったオーナーのジーサンに、近所に床屋はあるかと訊くと、酒樽のように太った体を椅子から起こし、着いて来い、と僕を案内してくれた。
ジーサンは宿の前の道まで出ると、二車線道路の反対側にいる男を大声で呼んだ。男は床屋だった。そして、その床屋を見た瞬間、僕の脳ではなく、眼球が、そいつはちょっと問題ありだろうと拒絶反応を示した。
道端の木に鏡をつるし、椅子を一個置いただけの営業形態を、はたして床屋と呼んでいいのだろうか、僕には判断がつかない。まぁここはひとつ、これ以上不可能なほど簡素化された、ギリギリで床屋のようなものを、青空床屋と呼ぶことにしよう。
問題は、僕の希望はボウズだということだ。ボウズをなめらかに美しく、18番最終ホールのグリーンのごとく仕上げるには、バリカンがなくてはならない。
僕は宿のジーサンに案内してもらったことを猛烈に後悔しつつ、トイレ中にドアを開けられたかのような慌てぶりで、バリカンはあるのかと質問した。そもそも、そこは道端で、屋外で、青空床屋なんだから電気さえありはしないのだ。
ジーサンはまた大声で、「おーいバリカンはあるのか?」 と青空床屋に尋ねる。空中高く掲げられたジーサンの右手は、マジックハンドのようにコキコキと動いていた。
「いや、手でコキコキやるやつじゃなくて、電気の、機械の…」 僕は急いで言葉を継いだが、僕の願いは聞き入れられない。ジーサンは、「あるぞ、さぁ行け」 と僕を促す、青空床屋は、「さぁ来い」 と道の向こうから手招きする。僕は覚悟を決めた、というか諦めて道を渡った。
青空床屋の男も、やはりジーサンだった。蒔にしたらよく燃えそうな、長年青空の下で頑張ってきたカラカラに乾いた椅子の上には、クッション代りにボロ布が何枚か重ねてあり、足元の地面には使い終わった剃刀の刃が何枚も捨ててあって危険極まりない。傍には客の残していった髪の毛が積んであり、ハエが大量に飛んでいる。
この青空ジーサンは一言も英語を理解できない。まぁいい、僕は二年半の旅行で随分と手話の経験を積んでいる。
僕は覚えたての手話表現を使い、右手をマジックハンドのように動かし、「そのコキコキを使って」 次に親指と人差し指で長さを示し、「これぐらいに切ってくれ」 と伝える。さらに手のひらで頭をなでて、「横も、上も、後ろも、ぜんぶ一緒の長さにしてくれ」 と続けた。
青空ジーサンは大仰に、わかったわかったと頷くと、櫛を当てて自分の好きなように切り始めた。やっぱり通じていない、僕の手話は通じるようで実は通じない。
「そうじゃない、櫛は要らないから直接バリカンで切ってくれ、ぜーんぶだ、ぜえーーぇんぶ」手動バリカンに長さを調節する気の利いた機能などありはしない。それに、青空ジーサンが櫛を使って長さを均一にできるわけがないと踏んだ僕は、観念してスキンヘッド一歩手前まで刈ってもらうことにした。
青空ジーサンは、自分がやりたかったヘアースタイルを却下されたのが気に入らないらしい。コキコキのしすぎで手が痛いと、ブツブツ抗議しながら、しぶしぶ髪を切っていく。
ジーサンの散髪の流儀ときたら荒っぽいもので、自分が立ち回ってバリカンを動かすのではなく、バリカンのある位置まで僕の頭をグイグイ動かして持っていく。首がとれそう、痛い…。
僕は命ある生き物で、神経が発達していて、痛みだって感じるんだけど… と言いたかったが、残念ながら僕の手話はそこまで難しい表現はできない。それに通じない。
頭からそのままヒゲまで刈り、襟足をトタン板のような切れない剃刀で整え終わると、最後に車のバックミラーを取り出した。合わせ鏡にして、後ろはこんな具合でいいかと尋ねてきた。おや、意外と気が利くではないか、僕は少しだけ感心したが、バックミラーは三つに割れていてよく見えなかった。
希望より随分短くなった少林寺一歩手前のボウズ頭で宿へ戻ると、案内してくれた宿のジーサンが開口一番、いくら払ったんだと訊いてきた。50ルピー (89円) だと答えると、20 (36円) でいいのにとぼそりと呟く…。そういう事は先に教えてくれ。後から教えるくらいなら、教えてくれない方がいい。
僕は鏡で仕上がり具合を確認した。よく見ると、当然だが、あちこち長い毛が飛び出ている。89円だしな、青空だしな、自分を納得させ、よく見ないという方法で問題を解決することにした。
お釈迦様のように、半分だけ目を開けてぼんやり見ればよい、さすれば、もはや問題は問題にあらず。
大輔さん。。ほんとに勇気あるなぁ〜〜すごいなぁ〜〜。
韓国は、桜が散ったとたんに、
冬から夏になりました。。
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