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再び朝の8時半からインド大使館のゲート前に並び、1時間を過ごす。前回もらった本申請の用紙と写真、パスポートを握り締めて、窓口の行列でさらに1時間。
行列は大して長くはないが、とにかく仕事が遅い。
あまりの仕事の遅さと非効率さに腹を立て、窓口で苦情を言ったところ、そのまま追い返されてビザをもらえなくなった人がいるという噂がある。みんなその噂を知ってか知らずか、黙って順番を待っている。
やっと僕の番になり、書類を渡し、今度は隣の窓口に並ぶ。ついに最後の列に辿り着いた。
最後の列の係官は、ひと目でわかる文字通り取って付けたような、ベレー帽のような形をしたカツラを被っている。カツラの部分は真っ黒だが、その下からはみ出ている地毛は白髪混じりなのでわかりやすい。
そのカツラの係官が僕のパスポートと書類をチェックして、口をモグモグさせながら、何かを頬張ったまま 「4時半だ」 と呟いた。
「4時半がどうしました?」
僕は意味がわからず訊き返した。係官の代わりに、後ろのレスラーのようにでかい黒人が低い声で僕に言う。
「4時半に戻ってきてビザを受け取るんだよ」
続けざまに日本語の話せるバングラデッシュ人が言う。
「もう終わり、4時半にまたね」
みんな親切に教えてくれるが、つまり 「そこを早くどけ」 ということだ。誰もが並ぶのにうんざりしている。
その場でビザをくれるものだとばかり思っていた僕は驚き、振り向いてレスラーとバングラデッシュ人に訊き返した。
「僕がここに戻ってくるのか?」
あたりまえだ。カツラが宿まで配達してくれるとでも言うのか。
少々頭が混乱したらしい。
僕は窓口に向き直り 「それはカツラですよね?」 と確かめたい衝動を抑えて、お礼を言って列を離れた。そんな質問をすると、ビザがもらえないような気がした。
かくして、今日も一日の大半をインド大使館で並んで過ごし、ようやくビザを手に入れた。
インドは遠い。
数日前に見た、路上で寝ていた子供を探したが居ない。
何度か通ったことのある交差点に差し掛かると、ふと道路わきに日の丸が見えた。立派な石碑に、この交差点と信号機は日本の援助で作られたと書いてある。歩行者用信号機の下には、信号の色の意味まで書いてあった。
しかし赤信号でみんな渡っているし、交差点の真ん中にはいつも警官が立っていて笛を吹いている。役に立っているのかどうかよくわからない。
道路を整備することにより、渋滞が減り、事故が減る、とも言える。
道路を整備することにより、どこかの国の車が売れる、とも言える。
子供はどこにいるのだろう、今日は誰かにお金をもらっただろうか。
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