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エベレストのベースキャンプでは宿泊することもできる。大きなテントが7、8個並んでいて、それぞれ8人くらいは寝ることができる。
しかしそれは、町内会が所有しているような、ただ大きいだけで、ごくありふれたテントであり、中に小さなストーブがあるものの、気温は外と変わらず、とても宿泊施設とは呼べない。あくまでもテントだ。
そのテントに泊まろうなど、ただの酔狂沙汰にしか過ぎないが、僕はここに泊まることを前々から決めていた。一生に一度、最近は結婚式でも使えなくなったこの言葉を、僕はここで使うことにした。
一生に一度、エベレストのベースキャンプで夜を過ごす。
芯まで冷えた体で、4枚重ねた毛布の中へ滑り込む。すでに持っている服はすべて着込んでいる。ズボンはスパッツにジーンズにウィンドブレーカーの3枚。上着にいたっては十二ひとえに近い。僕は無謀にも寝袋を持ってこなかった、これで寒さを凌ぐしかない。
しかし10月下旬のベースキャンプの寒さは、想像を遥かに越えていた。4枚の毛布では歯が立たない。しかたなく傍にあった玄関マットのような硬い敷物を上に乗せるが、重いだけで暖かくはならない。
体はこれ以上ないほど疲れているのに、寒くて眠れない。靴下をもう一枚履こうと思うが、毛布から出るのが辛い。トイレへ行きたいが、これも我慢。気分が悪く、肺と心臓が苦しい、高山病が酷くなってきた。
凍えながら数時間が過ぎた、どうせ眠れないのなら早く朝になって欲しい。どうにも我慢できなくなり、決死の覚悟でトイレへ立つ。テントの裏で用を足した。
月の明るい夜だった。凍てついた空気の中、夜空を見上げる。
雲ひとつ無い空に、微動だにしない星々が所狭しとひしめき合っていた。エベレストの星は瞬かない。
星が瞬いて見えるのは、上空で冷たい空気と暖かい空気が入り混じり、星の光がその対流の中を突き抜ける時に屈折するからであり、冷たい空気しか存在しないこの場所では、星は瞬かない。
エベレストの肩の上には月、空一杯の星々。この美しい星空と、月明かりに浮かび上がった白いエベレストをいつまでも眺めていたかったが、そうはいかない。
再びベッドへ潜り込んだ。体は完全に冷えてしまい、動いたので息があがった。高山病の場合、体の水分が減ってくると頭痛が酷くなるので水を飲まなくてはならない。ペットボトルを手に取ると中身が凍っている。手で氷を砕いて、まだ凍っていない水を飲む。さらに体が冷えた。
夜が更けるにつれて呼吸はますます苦しくなり、寝返りをうったり、ずれた毛布を戻すという動作だけで動悸がする。僕はあまりの苦しさに悪夢でも見ているかのようにうなされた。疲れ果て、眠りの一歩手前まで行っては、寒さに引き戻される。自分の吐いた息が、毛布の端を凍らせていた。
混沌とした意識の中で、日本のふかふかの羽根布団の感触を想った。布団に潜り込んで来る、柔らかな体毛に包まれた犬のことを想った。暖かいぬくもりに満ちた、女の肌を想った。
僕は朝まで生きていられないだろうと弱気になった。旅へ出てそろそろ2年になる。初めて、家へ帰りたいと感じた。
私も以前ヒマラヤのベースキャンプに泊った。
死ぬかと思った。
走馬灯を始めて知りました」。
すごいですね。
ヒマラヤなんて○○登山隊が行くところとばっかり思っていたんですが。
瞬かない星は見て見たい気がします。
高山病大丈夫ですか?
タフな大輔さん、これからもがんばってくださいね。
by azami
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