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出会いと再会のソウル 10年ぶりの再会

10年後のふたり

The Day 30 - 2002-12-06 Fri 22:02 Busan, Korea... Norah Jones - Ten Years Gone

10年間

シンヒとの10年ぶりの再会を果たした僕は、近所の料理屋へ向いながら、何から話すべきか考えていた。何しろ最後に彼女と会った時から、10年も経っているのだ、話すことはいくらでもあるし、訊きたいこともたくさんある。目の前に食べきれないほどの料理を並べられて、何から手をつけようかウキウキするような気持ちだった。

店も、料理の選択も、注文もすべて彼女にまかせた。今日は専属の通訳付きだから、どの店にしようか彷徨う必要も、一切解読不能なハングル文字のメニューを渡されて悩むこともない。

「仕事できたの?」

最初に質問してきたのは彼女の方だった。今まで短い電話で 「ソウルへ行く」 という用件だけしか伝えていない。

「旅行だよ、旅行」
「韓国を? 1週間どこを回ってきたの?」
「いや、韓国だけじゃなくて、世界旅行だよ」

少し驚いた様子の彼女に僕は続けた。

「世界一周。いろんな国をしばらく旅行しようと思ってね、韓国が最初の国ってわけ、隣だから」

福岡出身の僕にとって、韓国は目と鼻の先にある隣の国だ。10年ぶりに突然現れて、世界旅行へ行くというのだから、彼女を驚かせるには十分だった。

「仕事は?」
「辞めた」
「韓国にはどれくらいいるつもり?」
「さぁ、考えてない」

本当に何も考えていない。

「そうそう、こないだ電話で訊きそびれたんだけど、結婚は?」

彼女は僕より年上で、結婚して子供が何人かいてもおかしくない。家庭があれば、悠長に僕の相手もしていられないだろう。

「まだ独りよ、あなたは?」

同じ質問が返ってくるのは当然予想していた。

「結婚はしたよ、一回ね」

彼女は目を丸くした後、クスッっと笑い。「あぁそう」 と口の動きしかわからないくらい小さな声で言っただけで、何も訊こうとはしなかった。

「10年か... 私、まさか自分が10年経っても独身だなんて考えてもいなかったわ」

冗談交じりに彼女は言った。

「10年か... 僕もまさか自分が結婚して、離婚までしてるとは考えてもいなかったよ」

店中の客が振り向くくらいに、僕らは笑った。

中国語

「今はどんな仕事をしてるの?」
「旅行代理店よ、ツアーガイド」
「へぇ、じゃぁ英語も活かせていいね」
「うん、英語も使うけど、中国語の方が多いのよ」
「中国語?」
「そう。会社はね、中国とインドのツアー専門なの」
「へぇ、じゃぁ中国語も話せるわけ?」
「英語よりうまいくらいよ」

今度は僕が驚かされる番だった。彼女は3カ国語を話せるようになっていた。

10年前、お互い幼稚な英語で会話していたのを思い出す。僕は留学後、アメリカで2年間プログラマとして働き、帰国後も横浜の外資系企業で働いていた。英語を使う機会は必要に迫られながらも多かった。10年前に比べたら、だいぶマシにはなっているはずだ。彼女の英語も上達している。おまけに中国語を話せるという、それも英語よりもうまいというから驚いた。

「驚いたな、どうやって勉強したの?」
「大学院でしばらく勉強してたんだけど、3年前留学したの、北京へ、1年間ね」

なるほど、彼女の行動力に今さら驚きはしないが、僕は中国語という言葉に妙に魅力を感じた。言葉というより、3カ国語を話せる彼女が急に羨ましくなったのか、英語を勉強していたときの、大昔のライバル心が蘇ったのか、自分も中国語、3カ国語を話せるようになりたいという欲求が、ひらめきのように芽生えた。

「中国留学ってどれくらいかかった?」

やはり先立つものが必要だ。

「そうね、1年で700万ウォンくらいね」

日本円で70万だ。

「1年で? 学費が?」
「すべてよ。学費と、寮費、食費、生活費すべてと毎晩のビールを含めて、すべてよ」

彼女は中国留学の楽しかった思い出をたくさん話してくれた。仲のよかった友達の事や、人が集まれば必ずいる変な連中の話、思い出して自分で笑ってしまう出来事や、中国語の授業がどんなもので、中国のビールがいかに安いかまで、次から次へ。僕は彼女の思い出話を聞きながら、心の中でほとんど決心していた。どうせ次の国は中国だ。計画など最初から無い旅なのだから、1年くらい中国で寄り道してもいいだろう。2カ国目で70万使えば、その後の旅行にだいぶ影響するが、言葉は一生使える。それに、3カ国語話せたら世界旅行が楽しそうだ!

「シンヒ、決めたよ。中国へ行って中国語を勉強することにした」

僕の次の目的地が決まり、ひらめきが目的になった。

同窓会

ソウルのバスターミナル

「実はね、明日釜山へ行く予定だったの」
「釜山へ? じゃぁ僕は釜山で待っていればよかったんだ」
「えぇ、でもあなたがソウルへ来るって言うから断ったのよ、同窓会」
「同窓会を? それは申し訳ないことをしたな...」
「でもいいのよ、頻繁に会ってる人たちだし」

彼女の言う頻繁とは、おそらく1年に1回とか2回だろう。社会人になると、そう簡単に昔の仲間と集まる機会などない。僕は急に申し訳なくなった、勝手に自分の都合だけで押しかけ、同窓会を断らせていた。

「ほら、覚えてる? あなたが10年前に釜山へ来たとき、私の友達の下宿先に泊まったでしょ」

忘れるわけがない、僕の10年前の韓国の一番の思い出と言ってもいい。お婆ちゃん経営のその下宿には、6、7人の学生達が共同生活をしていて、一部屋に何人も一緒に寝泊りしていた。夜明け前から起き出し、学校の図書館へ行って勉強を始める。早く行かないと机が埋まってしまうのだという。彼らは暗くなるまでそこで勉強し、次の日の夜明け前には、また図書館へ向うのだ。その勤勉さに驚かされた、忘れようがなかった。

「覚えてるよ、はっきり覚えてる」
「あの人たちに会うはずだったの」

「それで、10年前の大輔が突然遊びにくることになったって話したのね、そしたらみんな覚えてたわよ、あなたのこと」
「へぇ、そうか。じゃぁ会ってみたいな、行こうよ、釜山へ、明日。僕も行ってもいいかな?」

彼女は笑うというか、呆れるというか、苦笑いをしながら言った。

「行こうって、あなた釜山から来たばかりなのに、また釜山へ戻るのよ? それにたった一泊だけだし」
「うん、でも僕もみんなに会いたいし、シンヒも会える、いいアイデアだと思わない? 僕が行ったら歓迎してくれるかな?」
「本気なの?」
「世界旅行なんだから、ちょっとくらい戻ったって何の問題もないと思うけど」

僕が本気だとわかると、彼女は言った。

「きっとみんな喜ぶわ」

彼女の笑顔が、僕のアイデアを受け入れていた。次の日の土曜日。僕らはバスに乗り、釜山へ向っていた。


加倉大輔2002-12-06 Fri 22:02 TrackBack
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